EARTH Dylan Carlson Interview 2011.12.29




アルバム『ANGELS OF DARKNESS, DEMONS OF LIGHT』2部作発売記念、EARTHのディラン・カールソンのインタビューです。

1993年に『EARTH 2: SPECIAL LOW FREQUENCY VERSION』で現代ヘヴィ・ドローン・ミュージック、ドローン・ドゥームの礎を築いた先駆者。
一時シーンからリタイアしながら2005年、アメリカーナの暗黒面を投影した『HEX; OR PRINTING IN THE INFERNAL METHOD』で復活を遂げた不死身の男。
NIRVANAのカート・コベインが尊敬してやまなかった親友。
そして今、新生EARTHで、総計1時間47分におよぶ大作『ANGELS OF DARKNESS, DEMONS OF LIGHT』2部作を完成させたディランに、電話取材を行いました。
決して雄弁ではないものの、ひとつひとつ言葉を選びながら語る彼からは、音楽に向けた真摯な姿勢が伝わってきました。

この記事の一部は『ANGELS OF DARKNESS〜 II』日本盤ライナーノーツに使われましたが、ここに掲載するのは、約1万字のほぼ完全ヴァージョンです。

なお、このインタビューの後、ディランのソロ・プロジェクト『WONDERS FROM THE HOUSE OF ALBION』も明らかになりました。
作品を聴くことが出来るのは2013年となりそうですが、楽しみです。

(インタビュー:山崎智之/uploaded 2012.3.7)
(感謝:デイメア・レコーディングス



  『ANGELS OF DARKNESS, DEMONS OF LIGHT I』
  『ANGELS OF DARKNESS, DEMONS OF LIGHT II』


●今日は病院に行ったと聞きましたが、体調は如何ですか?
実は『ANGELS OF DARKNESS, DEMONS OF LIGHT I』を作っている時に体調が悪くなって、医者に診てもらったんだ。B型肝炎だと言われて、3ヶ月に1回、病院に行くことになった。B型肝炎はアメリカではあまり見かけないけど、アジアでは感染者が多いんだよね?

●おそらく隠れ保菌者はけっこういるとは思いますが、アメリカと較べて多いか少ないかは知りません。お大事にして下さい!
とにかく、アルバムを作っているときは身体がだるかったり、かなり体調が悪かった。今ではずっと良くなったよ。

●『ANGELS OF DARKNESS〜I』が2011年2月に発売されてから、『II』が出るまで1年かかったのは何故ですか?2枚とも同じセッションでレコーディングしたんですよね?
うん、2010年にシアトルのアヴァスト・スタジオで作ったんだ。レコーディングもミックスも同時にやって、俺としては2011年内に両方とも出したかったんだけど、『サザン・ロード』の判断で、『II』は2012年2月までずれ込むことになった。純粋にビジネス上の都合だよ。CD2枚というのはもちろん、アナログのファンだったら、2LPを2種類買わねばならないし、けっこうな出費だからね...

●『ANGELS OF DARKNESS, DEMONS OF LIGHT』2部作のコンセプトについて教えて下さい。何故、”闇の天使、光の悪霊”というタイトルにしたのですか?
元々、対極にあるものに関心があったんだ。このアルバムでは音楽の明るさと暗さ、ノイズと静寂など、対比が際立っていると思った。もうひとつ、このタイトルは俺の反・一神教的な姿勢を表現している。現代社会の問題の多くは、一神教がはびこっているのが原因だと思うんだ。

●まあ、宗教が紛争の原因となることは多いですね。
さらに言えば、俺が民話というものに傾倒していることもある。妖精や精霊...それが”天使と悪霊”というコンセプトに帰結したと言えるだろう。民話的なアルバム...と言って、判ってもらえるかな。初めて聴くのに、かつて聴いたことがあるような気がする、ララバイ(=子守歌)のような作品だ。

●音楽面においても、一貫したテーマはあるのでしょうか。
音楽について言えば、「Old Black」は一番古い曲で、最も”書かれた”曲だ。2009年に書いて、バンド結成20周年ヨーロッパ・ツアーで演奏したんだよ。この曲はトラディショナルなA→B→A→B...という構成で、マイナー・キーで書かれている。それに対して、「Angels Of Darkness, Demons Of Light」は完全なインプロヴィゼーションだ。とにかくテープを回して、全員が意志の流れのままに演奏したんだよ。『ANGELS OF DARKNESS〜II』はその延長線上にあって、インプロヴィゼーション主体の作りとなっている。何箇所かオーヴァーダビングをしているけど、どうしても必要な所だけに留めて、自由奔放な流れを重視したんだ。ある意味、昔のジャズ・レコードに近いかもね。WOLVES IN THE THRONE ROOMと2週間の西海岸ツアーをやって、曲の基礎を形作って、スタジオに入ったんだ。だから、『ANGELS OF DARKNESS〜』2部作は、俺たちのライヴ・サウンドに最も近い作品だと思う。部屋の反響音をシンプルなマイクで捕らえて、エフェクトは最小限にした。バンド全員がひとつの部屋でプレイしている音を重視したんだ。開放弦を多用したり、空間を生かしている。EARTHの作品では最もミニマリズムを押し出したものだ。

●前作『THE BEES MADE HONEY IN THE LION’S SKULL』は、ライヴとどの程度異なっていたのでしょうか?
『THE BEES MADE HONEY〜』は今でもすごく気に入っているけど、カッチリと作り込まれたレコードだと思う。インプロヴィゼーションもあるけど少なめで、クラシック音楽のような作品だよ。『ANGELS OF DARKNESS〜』はもっと自由だ。

  『THE BEES MADE HONEY IN THE LION'S SKULL』


●『ANGELS OF DARKNESS〜』は当初の構想から、2枚組の大作になると判っていたのですか?それとも作っていくうちに、長くなってしまったのでしょうか?
最初から、かなりの長さになることは判っていた。インプロヴィゼーションが多いし、即興演奏を始めたら3分でハイ終わり、という訳にはいかないからね。どの曲も気に入っていたし、アルバムの流れの中で必然性があると確信していたから、CD2枚にしたんだ。CDの70数分という長さは、あくまでメディアの長さであって、音楽作品がそれに左右される必要はない。1枚に入りきらなければ、2枚にするしかないよ。聴かれるべき音楽が、メディアに入りきらないからカットするなんて、本末転倒じゃないか?
『I』『II』を同梱して2枚組にして発売することも考えたけど、『サザン・ロード』の判断で、2枚別売りにすることにしたんだ。ビジネスのことは彼らの方がよく判っているし、特に文句はないよ。ただ、2枚を一気に聴いてもらうことによって、『ANGELS OF DARKNESS〜』の世界は完成するんだ。

●現在のEARTHは初期のヘヴィ・ドローンの面影をほぼ感じさせない音楽をプレイしていますが、WOLVES IN THE THRONE ROOMなど、ヘヴィなバンドと一緒にツアーしています。ヘヴィなバンドとツアーすることに違和感はありませんか?
EARTHがツアーする時は、自分が気に入っているバンドと一緒に回るようにしているんだ。WOLVES IN THE THRONE ROOMやSUNN O)))は良い友人だし、ヘヴィな音楽をネクスト・レヴェルに持っていく素晴らしいバンドだ。サー・リチャード・ビショップはいわゆるヘヴィなアーティストではないけど、自分にインスピレーションを与えてくれる、優れた音楽家だ。3月のヨーロッパ・ツアーではMOUNT EERIEとO PAONと回るし、さまざまなタイプのアーティストとツアーしているよ。ヘヴィであるかよりも、音楽の品質を重視している。

●今でもヘヴィな音楽は聴きますか?
うん、年をとると過去を振り返りたがるもので、最近は昔のハード・ロックを聴いている。UFOとか、初期のJETHRO TULLやTHE GROUNDHOGS...子供の頃からBLACK SABBATHやDEEP PURPLEの大ファンだったし、SLAYERもたまに聴かずにいられなくなる。でも最近ではヘヴィな音楽よりも、PENTANGLEやバート・ヤンシュのソロ、FAIRPORT CONVENTIONを聴くことが多い。最近のバンドではSMOKE FAIRIESがお気に入りだ。

●『ANGELS OF DARKNESS〜I』が出たときEARTHのチェロ奏者、ロリ・ゴールドストンがウェブサイトであなたにインタビューして、あなたは「FAIRPORT CONVENTION、PENTANGLE、TINARIWENに通じるものがある」と語っていましたが、それは『II』にも当てはまるでしょうか?
うん、『I』よりもさらにPENTANGLEに接近したかも知れない。彼らはフォーク・ミュージックにジャズ的な要素を加えていたからね。TINARIWENは、複数のギターが異なったメロディを同時に奏でるスタイルから触発された。彼らがやっていることを模倣するつもりはないし、やろうとしても出来ないだろうけど、彼らはインスピレーションの源となっているよ。『THE BEES MADE HONEY〜』と『ANGELS OF DARKNESS〜』で最も異なっているのは、メロディのインタープレイがより顕著になったことだろう。メロディが交錯しあうことで、その中から新しい音が生まれるんだ。

●『I』の「Father Midnight」はLES RITA MITSOUKOのフレッド・シシャンの写真からインスパイアされたそうですが、『II』でそんなヴィジュアル面からインスパイアされた曲はありますか?
具体的な写真や絵画は、特にない。それよりも、景色が頭の中に浮かんでいたよ。『THE BEES MADE HONEY〜』では砂漠をイメージしていたけど、『ANGELS OF DARKNESS〜』はイングランド北部の、寒々としたヴィジョンがあった。ジャンルとしての”ノーザン・ソウル”とはまったく異なるけど、このアルバムは俺にとっての”ノーザン・ソウル”なんだ。ツアーでフィンランドに行ったときも、現地の風景にノックアウトされた。空や湖、トナカイ...その時は既にアルバムをレコーディングしていたから、影響はなかったけどね。

●それでは、『ANGELS OF DARKNESS〜II』収録曲について解説して下さい。
「Sigil Of Brass」はアルバムで最もナチュラルに仕上がった曲で、最も音の隙間がある曲でもある。俺とロリが楽器を合わせて、それにエイドリアンが加わったんだ。
「His Teeth Did Brightly Shine」のタイトルは、イギリスの昔のトラッド・ソング「Reynardine」の歌詞の一節から取ったんだ。狐男や妖精狐について歌った曲で、アン・ブリッグスやPENTANGLE、FAIRPORT CONVENTIONも演っている。この曲ではチェロがリズムを奏でていて、それにギターを乗せているんだ。もしアルバムからフェイヴァリットを1曲選ぶとしたら、この曲だろうな。アルバム全体について言えることだけど、ギターでヘヴィさを出しているのではなく、チェロ・ヘヴィな曲だよ。ギター・パートでオーヴァーダブをちょっとしているんだ。グリッサンドのフレーズをどうしても入れたくてね。
「Multiplicity Of Doors」はワルツのリズムなんだ。3/4拍子なんだよ。この曲に合わせて踊ることも可能だ。このアルバムは、俺たちのダンス・レコードなんだ(笑)。この曲は『II』では最も”書かれた”曲だろうな。クールでヘヴィなリフが全体を覆っている。
「The Corascene Dog」はある意味、「His Teeth Did Brightly Shine」の続編なんだ。モードは異なっているけど、雰囲気はちょっと似ている。やはりインプロヴィゼーション主体で、すぐに完成した曲だ。”Corascene dog”は錬金術で使われる表現だよ。
「The Rakehell」は、昔のソウルやR&Bのフィーリングがあるかも知れない。この曲でも踊ることが出来るよ。この曲はレコーディングしていて、楽しかった。R&Bというと、最近ではアーバン・コンテンポラリーR&Bを思い浮かべる人が多いかも知れないけど、俺が言っているのはメンフィスの昔のソウルだよ。そういう音楽が、頭の中で鳴っていたんだ。最近はいろんな音楽ジャンルがあり過ぎて、付いていけないよ...(苦笑)。

●「The Rakehell」はリフが繰り返して、シャーマン的な高揚感がありますね。
うん、反復リフがあって、ソロがあって、エイドリアンがバック・ビートを叩いて...ロック・ソングに近いかかもね。ただ、やはりインプロヴィゼーションを録ったものなんだ。誰が歌ったか忘れてしまったけど、この曲を録り終わった後に、「I Heard It Through The Grapevine」のライヴ・ヴァージョンを聴いて、ちょっと似ているかも?とも思った。後になって思ったことだし、強引なこじつけだけどね。
この曲のリフは、オジー・オズボーンの『BLIZZARD OF OZZ』を聴いていて浮かんだものなんだ。確か「Revelation (Mother Earth)」だったと思う。あるいはVAN HALENの「Somebody Get Me A Doctor」にも似ているかもね。あとJUDAS PRIESTの『POINT OF ENTRY』の曲で、奇妙なディレイのかかった曲があるよね?それにも似ている...かも知れない。

●…全然似ていない気もしますが。
...うん、そうかもね。

●『II』では『I』や過去作品と較べて、チェロのパートが大幅に増えていますね。
チェロなどの弦楽器は、ギターでは得られないサステインが好きなんだ。フレットがないせいもあって、色彩豊かな音の拡がりを出すことが出来る。もちろんロリという最高のチェロ奏者が加わったことも大きい。彼女はEARTHに大きな変化と深みをもたらしてくれたよ。ライヴで演奏している「Ouroboros Is Broken」のような昔の曲も、彼女が加入したことで新しい生命が吹き込まれたんだ。

●2005年の復活作『HEX; OR PRINTING IN THE INFERNAL METHOD』まではまず最初にコンセプトがあって、それに基づいて音楽を書いていったのに対し、『THE BEES MADE HONEY〜』ではまず音楽を書いて、コンセプトは後から付いてきたそうですが、『ANGELS OF DARKNESS〜』ではどうだったのでしょうか?
『ANGELS OF DARKNESS〜』も、音楽が先にあったよ。バンドが集まって、インプロヴィゼーションによって楽曲を築き上げていくプロセスだったから、事前にコンセプトを決めることは不可能だしね。「Old Black」のように”書かれた”曲だったら、コンセプト先行ということも可能だっただろうけど、この曲もまず音楽が先にあった。

  『HEX; OR PRINTING IN THE INFERNAL METHOD』


●『HEX〜』のコンセプトとは、どんなものだったのでしょうか?
『HEX〜』は”北米大陸にかかる呪い”を題材にしているんだ。人や建物ではなく、アメリカの大地そのものが呪われている。このコンセプトは、コーマック・マッカーシーの『ブラッド・メリディアン』からも触発された。1840年代、アメリカ中西部の荒廃を描いた小説なんだ。西部開拓時代のアメリカは、大地に呪縛を残していった。そして、それは現在でも消えることがない。そんな呪縛を音楽で表現したかったんだ。

●『THE BEES MADE HONEY〜』は?
『THE BEES MADE HONEY〜』は、”EARTH版ゴスペル・レコード”なんだ。”蜜蜂が獅子の頭蓋骨で蜜を作る”というタイトルからも判るとおり、聖書から触発を受けた曲が多い(タイトルは士師記第14章8節から)。ダークな部分もあるけど、総体的にはポジティヴなアルバムだ。『HEX〜』はダークな世界観を描いていたけど、『THE BEES MADE HONEY〜』は瞑想的でメロウなサイケデリック調の、一種GRATEFUL DEADに通じるサウンドだと思う。ACID MOTHERS TEMPLEっぽいと感じる人もいるかもね(笑)。『ANGELS OF DARKNESS〜』はさらに音の隙間を生かした、髪を下ろした感じのアルバムだ。

●”Demon(悪霊)”がEARTHのアルバム・タイトルに登場するのは、1996年の『PENTASTAR: IN THE STYLE OF DEMONS』以来、2度目となります。あなたにとって”Demons of Light”とはどんな意味を持つのでしょうか。
『PENTASTAR〜』で言うDemonと、新作のDemonは、やや意味合いが異なるんだ。『PENTASTAR〜』のDemonは邪悪な存在だけど、”Demons of Light”は元々Demonの語源であるギリシャ語のDaimonに近いものだと思う。場所や物、樹木や草原に宿る精霊を意味しているんだ。音楽によって、そんな精霊を呼び起こすことが出来たら良いと考えている。

  『PENTASTAR: IN THE STYLE OF DEMONS』


●EARTHは1996年に『PENTASTAR〜』を発表してから9年間の沈黙を経て、2005年に『HEX〜』で復活を果たしています。『PENTASTAR〜』はEARTH史上、最も”普通の”ロックに近い作品でしたが、それはレコード会社からの圧力があったのでしょうか?それともあなた自身の意志?
俺自身の意志だよ。”普通の”ロックをやってみたかったんだ。EARTHのような”普通でない”バンドにとっては、それが最も挑戦的なことだからね。それに当時、すごく良いリード・ギタリストとドラマー(ショーン・マッケリゴットとマイケル・マクダニエル)がいたから、彼らの実力をフィーチュアするには、あのスタイルが適していると思った。俺は常にEARTHをロック・バンドと捉えてきた。だから『PENTASTAR〜』が「EARTHがロックをやるなんて!」と批判されたときは、「…はぁ?」と首を傾げたものだ。前からやってるよ!って。

●現在EARTHがやっている音楽も、”ロック”でしょうか?
もし、ひとつのジャンルに当てはめるとしたら、”ロック”だと思う。ロックには、さまざまなスタイルを網羅する幅広さと許容性があるんだ。ロックは民俗音楽やフォーク、トラッドと同じように、主として大衆音楽だ。 EARTHは教養音楽ではないし、アート・ミュージックでもない。EARTHは”インストゥルメンタル・ロック・バンド”だよ。

●もし『PENTASTAR〜』後もEARTHとして活動を続けていたら、さらにロック路線を押し進めていたでしょうか?
...判らない。体調を崩して、バンドを続けることが出来なくなったからね。ただ、『PENTASTAR〜』に続くアルバムの構想は練っていた。ロック・アルバムにして、ホーン・セクションを取り入れようと考えていたんだ。結局着手する前にその話はナシになってしまったから、何とも言えないな。

●ロック以外で、EARTHの音楽性に影響をおよぼしたアーティストは?
VELVET UNDERGROUNDやテリー・ライリー、ラ・モンテ・ヤング...ラ・モンテの理論は読んでいたけど、彼の傑作『THE WELL TUNED PIANO』を初めて聴いたのは1980年代末だった。衝撃を受けて、それ以来、彼の作品で手に入るものは必ず押さえるようにしているんだ。彼の師匠といえるパンディット・プラン・ナートの作品も素晴らしいね。ドローン=持続音には常に興味を持ってきたから、インド音楽のシタールやイギリス音楽のバグパイプも愛聴してきたよ。

●ラ・モンテ・ヤングの純正律による作曲手法には興味がありますか?実践してみたことはありますか?
もちろん興味はあるけど、実践したことはない。俺はギタリストだから、ピアノの調弦のように純正律にチューニング出来る訳じゃないしね。最近では純正律でチューニング出来るギター・ネックも開発されているけど、まだ弾いたことはないんだ。いずれ試してみるつもりだけど、それが自分の音楽性にどのように作用するか、まだ判らない。それに、さっきも言ったように、EARTHの音楽を”ロック”の枠内に留めておきたいこだわりがあるんだ。過剰にアヴァンギャルドになってしまうと、大衆音楽でなくなってしまうだろ?

●1993年の『EARTH 2』はドローン・メタル、ドローン・ドゥームを創り出したアルバムとして歴史的に重要な位置を占めていますが、どんなところから触発されたのでしょうか?
最初のレコード『EXTRA-CAPSULAR EXTRACTION』(1991)はメタル寄りの作品だった。通常のメタル・バンドは曲展開が性急で、気に入ったリフがあっても、すぐに別のリフやコーラスに移ってしまう。だから俺は、ひとつのリフを延々とやるようにしたんだ。そのリフのテンポを落として、もっと落として、テンポが無くなるまで極限までスローにしたのが『EARTH 2』だった。さらに『EARTH 2』が極端だったのは、スタジオの16トラック全部をフルに使ったことだった。とにかく隙間を作らず、すべてのトラックを埋めなきゃ!という強迫観念があったんだ。あと、当時はCDが普及し始めた頃で、74分収録できるというから、その74分をフルに使おうと思った。すべてを極限までプッシュしようという試みだったんだ。面白いのは、当時すべてをビッグにしようと試みたのに、今になって聴いてみると、ほとんど閉所恐怖症的に聞こえるということだ。もし今、『EARTH 2』をリメイクしたら、まったく異なったアルバムになるだろう。当時は、一番でかいアンプを最大音量にしていたけど、実は小さなアンプを最大音量にした方が、ラウドに聞こえるものなんだ。

  『EARTH 2: SPECIAL LOW FREQUENCY VERSION』


●『EARTH 2』をリメイクしたら、どんなものになるでしょうか?
うーん、どうだろうな。それよりも新しい音楽をやりたい。リメイクしようと試みたところで、全然違ったものになるから、リメイクする意味がないよ。

●『EARTH 2』とほぼ同時期にMELVINSが『LYSOL』を発表していますが、何故同時多発的にドローン・メタルが誕生することになったのでしょうか?
俺は初期の、まだ速くてハードコアな頃のMELVINSから影響されてきたんだ。そうして彼らがスロー・ダウンしていくさまを見てきたから、向かう先は同じだったのかも知れない。BLACK SABBATHやKING CRIMSONのようなクラシック・バンドを除くと、ほぼ同世代で最も影響を受けたのがMELVINSだった。それを認めることに、躊躇はないよ。バズ・オズボーンからは多大なインスピレーションを得た。彼はただギターを弾くだけではない。アンプも楽器として弾いていたんだ。ステージ上の立ち位置や、フィードバックが出るポジションも、彼にとって音楽表現の一環だった。俺がEARTHを始めて間がない頃、バズからアドバイスを受けたんだ。「バンドを長く続けていくには、2つに1つしかない。流行りを追いかけていくか、それとも流行りを無視して自分の道を進んでいくかだ」ってね。MELVINSは後者の代表的なバンドだよ。EARTHもそうありたいと考えている。

●EARTHとMELVINSの共通項として、ジョー・プレストンが在籍してきたことがありますが...。
(あまり嬉しくなさそう) いや、まあ、そうだな。

●ジョーがEARTHを辞めた後、EARTHのブートレグ7”をリリースしたというのは本当でしょうか?
本当だよ。彼の中では、EARTHはMELVINSに加入するまでの腰掛けに過ぎなかったんだろうな。まあ、今はもう怒っていない。彼はTHRONESで自分の音楽をやっているし、とりあえず幸せになって欲しいね。

  『OUROBOROS』 (Bootleg 7")


●ジョーと話すことはありますか?
いや、ずっと話してない。しばらく前、一度バーミンガムのライヴ会場で出くわしたことがあるけど、彼は俺に気付かないフリをしていたよ。...まあ、どうでもいいことだ。人生は短いものだし、他人に対して怨恨を抱くのは時間の無駄だ。

●EARTHとMELVINSのもうひとつの共通項として、NIRVANAのカート・コベインとの交流があります。
...その話は、あまりしたくないな。

●カートはEARTHの「Divine And Bright」でヴォーカルを取っていますが、彼が後にNIRVANAでロック・スターになると、当時予想できましたか?
いや、誰も想像できなかったと思う。あれほどの成功は、計算して出来るものではない。彼はNIRVANAで自分が信じる音楽をプレイして、それが爆発的なヒットとなった。それには実力に加えて、運もあっただろうし、本当に...奇妙な出来事だったと思う。

●カートと最後に会話した時のことを覚えていますか?
覚えているけど、それは話したくない。

●あなたは『PENTASTAR〜』を発表した後、音楽シーンから一時身を退きますが、それはカートの死に起因する部分もあったのでしょうか?
それよりも、俺自身の問題によるものだ。

●映画『カート&コートニー』で、あなたがインタビューに応じていますが、あまり体調が良くなさそうでしたよね。
ああ、良くなかった。良くなかったよ。体調も悪かったし、法的な問題も抱えていた。音楽をやる意欲を失って、ロサンゼルスに引っ越して、4年間ぐらいギターに触れることもなかった。普通の生活をしようと、苦闘していたんだ。

  『カート&コートニー』


●カートが行方不明になったとき、『カート&コートニー』でも登場する私立探偵トム・グラントとあなたで彼を探したそうですが、グラントは後になって、コートニー・ラヴがカートの死に関わっていると発言しました。あなたは彼の主張するとおり、コートニーが関わっていると思いますか?
いいや、思っていない。あの男は無能(inept)だった。元々は保安官だったのに、仕事が勤まらなくて、私立探偵になったんだろ。...この話はもう止めないか?

●どうもすみません。...日本のファンは、ぜひ2012年にEARTHのライヴを見たいと願っています。ぜひ来日公演を実現させて下さい!
うん、実は今、ブッキング・エージェントが日本のプロモーターと話し合っているところなんだ。俺自身、ずっと前から、ぜひ日本でプレイしたいと思ってきた。俺の双子の兄弟が、日本に住んでいたことがあるんだ。数年前、祖母が仙台の米軍基地の施設で英語を教えていた関係で、彼も1年ほど来ていた。顔は似ていないけど、兄弟なんだよ。デヴィッドというんだ。彼はもう帰国していたけれど、日本が大震災に見舞われたことは、ショックだった。
もうEARTHで20年やってきて、まだ日本でプレイしたことがないんだ。日本に行くのは、運命だと信じているよ。


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