MELVINS Buzz Osborne Interview 2010.5.14




アルバム『THE BRIDE SCREAMED MURDER』発売記念、MELVINSのKing Buzzoことバズ・オズボーンのインタビューです。
MELVINSといえば強烈にヘヴィなサウンドと共に、悪意を込めたブラックなユーモアが持ち味。時にインタビューでも完全に相手をおちょくって、会話がほとんど成立しないことがあるため、取材前には少なからずビビっていました。
(1999年7月27日、メイン州ポートランドのWMPGラジオでのインタビュー音源がまさにそれで、訊き手が困り果てています)
しかし、いざ話してみると、真面目75%不真面目25%、ちょうど良いサジ加減で話してくれて、楽しいインタビューになりました。
しかも、インタビューのしばらく前に拙ブログで触れていた『肉体の悪魔』『ガンガ・ディン』の話題が出て、シンクロニシティだ!と色めき立ってしまいました。
ぜひとも近いうちに日本で本格ツアーを行って欲しいです。

(インタビュー:山崎智之/uploaded 2010.6.2)
(感謝:デイメア・レコーディングス



●2009年7月25日、フジ・ロック・フェスティバルでのライヴについて、どんなことを覚えていますか?
時間は短かったけど、グッド・ショーだった。今にも雨が降りそうだったのを覚えている。他のバンドは全然見なかったな。印象に残っているのは、観客がみんな山の傾斜にテントを張ってキャンプしていることだった、寝ているあいだに坂を転がり落ちてしまわないか、心配になったよ。

●苗場は山の中ですからね。
うん、でも俺だったらもっと平地にテントを張ることを考えるよ。
...君はどこの人?

●日本人です。
アクセントが変わってるな。オーストラリアっぽい話し方だね。

●そうですか?オーストラリアには一度も行ったことすらありません。
まあ、オーストラリアなんか行かなくてもいいよ!サンディエゴは行ったことある?

●ないです。
オーストラリアもサンディエゴも同じようなものだ。行かなくてもいい。

●で、新作『THE BRIDE SCREAMED MURDER』について教えて下さい。4人編成で全員がヴォーカルをとり、ツイン・ドラムスのため、サウンドに厚みとテクスチャーが生まれて素晴らしいです。
うん、いつも以上に新しいアイディアを詰め込んで、作っていて楽しいアルバムだった。それ以上に音楽ファンとして、自分が聴きたいアルバムを作れたと思う。俺が聴きたい音楽は、LOS LOBOSのメンバーがやっているLATIN PLAYBOYSみたいなバンドなんだ。彼らは最もオリジナルで、ハートから湧き出る、崇拝すべき音楽をやっている。彼らの『DOSE』というアルバムはおすすめだ。絶対に聴くべきだよ。キャプテン・ビーフハートの『THE SPOTLIGHT KID』や『CLEAR SPOT』と並んで、最高にクリエイティヴな作品だ。

  『THE BRIDE SCREAMED MURDER』


●キャプテン・ビーフハートから音楽的に影響は受けていますか?
音楽面よりも、常にチャレンジを続ける姿勢から影響を受けた。俺は「影響された」と言って、よそのバンドをそっくり真似するようなことはしたくないんだ。たぶんMELVINSを聴いて、ビーフハートを連想する人は少ないと思う。でもそれでいいんだ。

●『THE BRIDE SCREAMED MURDER』の曲は前半と後半の二部構成になっているものが多いですが、それは意図したことでしょうか?
うん、そうしたら面白いと思った。こういうのは、意図せずには出来ないものだ。ある日パッと思いつくわけにはいかないんだよ。「The Water Glass」の後半は、軍隊のミリタリー・ケイデンス(訓練歌)の雰囲気を出したかったんだ。俺の知る限り、これをやったことがあるロック・バンドはいないからな。やる価値があると思った。ヘヴィ・メタル・ミリタリー・ケイデンス・ソングだ。

●THE WHOのカヴァー「My Generation」はオリジナルとまるでアレンジが異なっていますが、どんなところからインスピレーションを得たのですか?
『キッズ・アー・オールライト』に入っているヴァージョンがオリジナルよりスローで、それを気に入っていたんで、さらにスローなMELVINSスタイルにしたんだ。もう2年ぐらい前からライヴでやっていて、クールなアレンジになったと思ったんで、レコーディングすることにした。『THE BRIDE SCREAMED MURDER』は、まず最初に「My Generation」があって、そこから積み上げていったアルバムなんだ。まず「My Generation」があるから、じゃあこんな曲も入れてみよう、あんな曲も入れてみようってね。最終的に、いろんなタイプの曲が入ったアルバムになった。ここ数作をレコーディングしているトシ・カサイとの作業もすごくうまくいったし、すごく良いアルバムに仕上がっているよ。

●「P.G.x3」はスコットランド民謡「ペギー・ゴードン」をアレンジしたものだそうですね。
そう、『プロポジション/血の誓約』って映画で使われている曲が元ネタなんだ。鞭打ちシーンで、アカペラで歌われている。残念なことにサントラ盤CDには収録されていないんだ。映画は好きだし、よく見るよ。オールタイム・フェイヴァリットはジョン・ヒューストンの『黄金』、2番目は『アラビアのロレンス』だな。監督ではジョン・ヒューストン、それからファスビンダー、デヴィッド・リンチ、ジョン・ウォーターズが好きだよ。

●前作『NUDE WITH BOOTS』の「Dies Iraea」は聖歌「怒りの日」をモチーフにしていますが、『シャイニング』のオープニング・テーマからインスパイアされたのですか?
まず第一に『シャイニング』だけど、「怒りの日」のモチーフはケン・ラッセルの『肉体の悪魔』、それからジョン・ヒューストンの『天地創造』でも使われているんだ。素晴らしい曲だし、MELVINSのヴァージョンを録りたかった。

  『NUDE WITH BOOTS』


●FANTOMASの映画音楽カヴァー集『THE DIRECTOR’S CUT』(2001)で、あなたが選んだ曲はありますか?
いや、あのアルバムの曲はすべてマイク・パットンが選んだものだ。ただ、『ローズマリーの赤ちゃん』とかはプレイして楽しい曲だけどな。あの時も「Dies Iraea」をやろうと提案したけど、却下された。後になってパットンは「あの曲もやれば良かったなぁ」と後悔してたよ。遅いよバーカ!って言ってやった。あともう1曲やりたかったのは、『事件記者コルチャック』のテーマ。

●『事件記者コルチャック』!
そう、『Xファイル』の元ネタだよ。俺が子供の頃は、毎週『事件記者コルチャック』と『ロックフォードの事件メモ』を楽しみにしていた。『事件記者コルチャック』にはパイロット版があって、低予算で作られたエピソードがあるけど、それも最高なんだ。

●MELVINSは毎回アナログ盤も凝った作りにしていますが、『THE BRIDE SCREAMED MURDER』もアナログで何かスペシャルなことをやる予定でしょうか?
いずれはLPも出したいし、スペシャルなことをやろうと考えているけど、これからの話だ。アルバムを出すとき、CDとレコードをどうしても同時に出さなければならない必要はないし、これから良いアイディアが浮かぶのを待つよ。その前に、13枚組CDボックス・セットを出すんだ。凄いだろ?レザーみたいなヴィンテージ・カヴァーで、信じられない豪華さなんだ。300セット限定だから、出たらすぐに押さえることをお勧めするよ。こういったスペシャル・リリースは、ダウンロードじゃ手に入れることが出来ない。実際に手に持って、その重さを感じることが出来るんだ。
アナログ・レコードを出すよりも、CDを出す方がコスト的にリーズナブルなんだ。7インチ・シングルを100枚プレスしようとしたら、1枚あたり5ドル以上かかってしまう。ジャケットを付けたりしたら、LPよりも高くなってしまうんだ。だから以前ほど限定7インチを出すのが難しくなってしまったよ。

●でも世界中にハードコアなMELVINSコレクターがいるし、出しさえすれば確実に捌けるのでは?
うん、でもその前に制作費用がいるだろ?そういった限定7インチとかの場合、レコード会社からアドバンスをもらえるわけでもないし。...まあ、たまには面白いレコードを出すようにするよ。俺はLPや7インチの時代に生まれたし、愛着があるからな。

●MELVINSのレコードを蒐集するコレクターについて、どう思いますか?
俺自身いろんなものを集めるし、彼らの気持ちは理解できるよ。本とかおもちゃとか...最近読んだ本で面白かったのは、(T.E.ロレンスの)『知恵の七柱』だ。あと(ラドヤード)キプリングの短編小説はどれも好きだよ。知ってた?キプリングは『ジャングル・ブック』をヴァーモントで書いたんだってな。それであんなに鮮明にインドの物語を書けるんだから、人間の想像力というものは凄いよ。

●キプリングの短編というと『ガンガ・ディン』とか。
そうそう、『ガンガ・ディン』は映画も素晴らしい。ヴァーモントも風情があって良いところだ。秋の景色は、輝かんばかりに美しい。冬は雪が降って大変らしいけどな。俺にはカリフォルニアが向いているよ。もう17年間ロサンゼルスに住んでるんだ。

metalsucks.comのインタビューで「ブラック・メタル・バンドはオタクばかり」と言っていましたが、MELVINSオタクというのも相当なものですよね。
別に俺もブラック・メタルが全部ダメと言っているわけじゃないんだ。ただ、VENOMとBATHORYをパクった白塗りのオタクがハロウィンの仮装をしているのが滑稽だと言ってるんだよ。MELVINSの場合、リスナーのほとんどは普通の音楽ファンだ。何も音楽が入っていない無音の「Shit Sandwich」をeBayで落札するようなコレクターは、世界に100人もいないよ。

●「Shit Sandwich」のコンセプトについて教えて下さい。
「Shti Sandwich」はミネアポリスのGrumpy’sというクラブでのショーを記念して出したんだ。俺たちの脳内はキャプテン・ビーフハートとジョージ・クリントン、そしてレニー・ブルースで出来ている。レコードを発売するという表現の限界を一歩推し進めようと考えたんだ。俺たちは常に、アートとは何だろう?という命題に取り組んできた。(アンドレス・セラーノの)「ピス・クライスト」は最高のクールだと思うけど、あれがアート作品として美術館に展示されるのと、「Shit Sandwich」がレコードとして売られることは、どう違うんだろうか?「Shit Sandwich」は音が出ないという批判もあるだろうけど、それを言ったらポスターだって音が出ない紙っぺら1枚なのに、40ドルとか取るだろ?俺たちは「Shit Sadnwich」を自分たちの作品として捉えている。決してジョークではないんだ。
ちなみに「Shit Sandwich」はジョン・ケージのカヴァーではない。オリジナル曲だよ(笑)。

●でもファンをおちょくっている部分はありますよね?
もちろん面白がっていることは確かだけど、ファンだって馬鹿じゃないし、判った上でレコードを買ってるんだ。俺たちが面白がっているのと同じぐらい、彼らも面白がってるんだよ。

  『SHIT SANDWICH』


●『PRICK』は”実験作品”でしょうか?それともギャグでしょうか?
"笑いながら作った実験作品”だ。決してギャグではないし、ファンをおちょくるために作ったアルバムではない。MELVINSのディスコグラフィにおいてユニークな位置を占める、特異な作品だよ。それは『COLOSSUS OF DESTINY』についても言えることで、あのアルバムは俺にとってトップ5級のお気に入りだ。MELVINSとしての音楽性を損なうことなく、THROBBING GRISTLEに最も接近した作品だと思う。あの女装野郎が出来ることだったら、俺にだって出来るさ。 しかも奴らの『HEATHEN EARTH』と違って、『COLOSSUS OF DESTINY』の最後には最高にブルータルな「Eye Flys」が入っている。アルバムのてっぺんにチェリーとクリームが乗っているようなもので、それだけでも俺たちの勝ちだ。

  『COLOSSUS OF DESTINY』


●どこまで無茶苦茶をやってもファンが諦めずに付いてくるか、試している部分はありませんか?
そんなわけないだろ。

●MELVINSはさまざまな実験や音楽的冒険を行ってきましたが、その対極にあるのがメジャー・レコード会社の『Atlantic』が3枚のアルバムから選んだ”ベスト盤”の『MELVINMANIA』でしょうか。
『MELVINMANIA』はまったく理解不能なアルバムだ。ヨーロッパの『Atlantic』が企画したコンピレーションだけど、俺は選曲にもアートワークにも関わっていないし、サンプル盤すら送られてこない。一言声をかけてくれれば協力していたのに、知らない間に店頭に並んでいたんだ。だいたい”ベスト盤”といっても、何を基準にした”ベスト”なのかも意味不明だ。俺は知らない。

  『MELVINMANIA』


●『MELVINMANIA』の翌年、2004年に発売されたデビュー20周年記念本『NEITHER HERE NOR THERE』には1984年のデモから2002年の『HOSTILE AMBIENT TAKEOVER』まで、レーベルを超えたコンピレーションCDが付けられていましたが、それは『MELVINMANIA』に対する反動の意味合いもあったのでしょうか?
いや、『NEITHER HERE NOR THERE』は1年半以上前から作っていたし、CDの選曲も長い時間をかけたものだから、一朝一夕で作ったものではない。たぶん『MELVINMANIA』よりずっと前から計画が動いていたと思う。

  『NEITHER HERE NOR THERE』


●『NEITHER HERE NOR THERE』は絶版だし、CDだけでも単体で出せばいいのに。
バンドが解散したら出すかも知れないけど、今はあまり”ベスト盤”を出すことに関心がないんだよ。過去をほじくり返すよりも、新しいレコードをコンスタントに出していきたい。過去から現在までの曲を聴きたければ、俺たちのライヴを見に来ればいいんだ。『THE BRIDE SCREAMED MURDER』ツアーは2部構成で、45分のショーを2セットやるから、いつもよりも多くの曲を聴くことが出来るよ。

●過去をほじくり返すといえば、10年前から『Ipecac』から『GLUEY PORCH TREATMENTS』、『26 SONGS』、『MANGLED DEMOS FROM 1983』といった初期の音源を新装リリースしましたが、あの続きはもう出さないのですか?『OZMA』(1989)のリマスター拡大盤をずっと待っているのですが。
そうだよな、具体的なプランはないけど、いずれ出すかも知れない。『OZMA』の頃の音源はデモが何曲かあるのと、当時のライヴを録ってあるから、それを入れたら良いかな。アルバム用の曲を録るギリギリの時間しかスタジオを取れなかったから、アウトテイクとかはないんだ。エンジニアは『OZMA』に関わったことで自分のキャリアに傷がつくと思って、ずっと誰にも言わなかったらしい。

  『OZMA』


●『LYSOL』(1992)の「Hung Bunny」はSUNN O)))やNADJAなど、現代でいうヘヴィ・ドローン・ミュージックやドローン・メタルの元祖となった曲ですが、この曲を書いたときのことを教えて下さい。
「Hung Bunny」を書いたときのインスピレーションは、「もしSWANSがヘヴィ・メタルをやったらどうなるだろう?」というものだった。頭の中では「Raping A Slave」をイメージしていたけど、結果として完全に異なったものになった。そのサウンドに、どういうわけか若手たちが飛びついてきたんだ。

  『LYSOL』


●『LYSOL』とほぼ同時期にEARTHが『EARTH 2』を発表していますが、何故同時多発的にドローン・メタルが誕生することになったのでしょうか?
判らない。偶然としか言いようがない。EARTHはシアトルでやっていたけど、俺たちはカリフォルニアを拠点にしていたしな。ただ、『LYSOL』はドローン・メタルだけでなく、「Sacrifice」や「With Teeth」のような、ドローンとかアンビエントとは無縁の曲も入っている。俺たちの音楽性ははるかに広いよ。俺自身はEARTHは好きだけど、ちょっと平面的に感じることも事実だ。一度しかライヴを見たことがないし、ディラン・カールスンとはもう何年も会って話してないけどね。

●あなたもディラン・カールスンも、カート・コベインと友人でしたね。
その通り。カートと最後に話したのはNIRVANAの最後のショー、ミュンヘンでのライヴだった(1994年3月1日)。MELVINSが前座だったんだけど、ステージに上がる直前、カートがこう言ったんだ。「これからはソロでやるつもりだ(I should just be doing this solo)」ってね。それが最後の会話だった。1ヶ月後、彼はこの世を去ってしまったんだ。正直その時期のNIRVANAのショーは酷かった。バンドが長続きしないことは判っていたよ。カートは友達だったし、キャリアを棒に振ってでも、長生きして欲しかった。

●ちょうど先日(2010年4月)、HOLEが『NOBODY’S DAUGHTER』を発表しましたが、ミュージシャンとしてのコートニー・ラヴをどう評価しますか?
そのアルバムは聴いてないけど、コートニーは才能のかけらもないイカサマ女だ。あの女の人生において、評価できる瞬間はまったく存在しない。糞だ。ゴミだ。他に言いようがない。歌えないし、ギターも弾けない。曲も書けないし、人間としても最低だ。ひとつたりとも良いところがない、鳥肌が立つ畜生だよ。

●フジロックのステージではアルミニウム・ボディのギターを弾いていましたが、いつ頃から弾いているのですか?
もう1年半ぐらい前かな、Electrical Guitar Companyというメーカーのギターなんだ。ケヴィン・バーケットという人がフロリダで作っていて、俺のメイン・ギターだよ。木のボディのギターよりもハイエンドとローエンドの音が出て、レゾナンスも良いし、ネックが細いから弾きやすくて、『THE BRIDE SCREAMED MURDER』でも全面的に弾いている。

●MELVINSが結成して、もう28年が経ちますが、初期の曲でプレイするのが難しいものはありますか?
いや、特にないな。当時より今の方がギターの腕は上だし、ヴォーカルも難しいと思ったことがない。

●デビュー30周年に向けての抱負を教えて下さい。
30周年が来るより前に頭にダイナマイトを巻いて自爆するかも知れないし、別に抱負はないよ。糞みたいな出来事は毎日のように起きるけど、そんなことを気にしていたらやってられない。ただ人生を楽しみながら、日々を生きていくさ。


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