10. rise above, hellhound and the 90s british stoners



●CATHEDRAL / Rise Above
(前編)

NAPALM DEATHのシンガー、リー・ドリアンが自らのレーベル『Rise Above』を設立したのは'89年のことだった。
元々リーがこのレーベルを設立したのにはふたつの理由があった。まずひとつは自らの愛するハードコア・ミュージックを世に出すため。それが主な動機だったことは確かだが、もうひとつは生活のためだった。バンド活動一本で生計を立てることが出来なかった彼は失業保険の受給を受けていたものの、雑誌などに顔が出ているために不正受給の疑いを持たれ、収入が途絶えてしまった。それで困った彼はレコード会社を設立することによって、中小企業助成金(毎週40ポンドだったらしい)をもらおうとしたのである。

『Rise Above』からの第1弾リリースはNAPALM DEATHの'88年ヨーロッパ・ツアーで収録された13曲を収録したライヴ7"(タイトル無し)。'89年6月に行われた彼らのイギリス/ヨーロッパ・ツアー、そして7月の来日公演で会場売りされたので、持っているファンもいることだろう。
ジャパン・ツアー直後にバンドを脱退したリーはSxOxB、LONG COLD STAREと日英ハードコア・バンドの作品をリリース。それと同時にベーシストのマーク"グリフ"グリフィスと共に結成したニュー・バンドがCATHEDRALだった。彼らはBLACK SABBATHマニアのギャズ・ジェニングス(g、元ACID REIGN)、アダム・リーハン(g)、ベン・モックリー(ds)を加えて4曲入りのデモ作品『IN MEMORIUM』をレコーディングするが、このサウンドはSAINT VITUS、初期TROUBLE、THE OBSESSEDなどからの影響、すなわちNAPALM DEATHから一転してドゥーム・メタル色の強いものに仕上がっていた。

そして、それに前後して『Rise Above』からリリースされたのがコンピレーション・アルバム『DARK PASSAGES - DOOM METAL COMPILATION』である。このアルバムにはCATHEDRALの『IN MEMORIUM』から2曲に加えてSAINT VITUSCOUNT RAVENREVELATIONSOLITUDE AETURNUSらが曲を提供しており、初期CATHEDRALのサウンドの"元ネタ"が詰まっている点で興味深い。
なお本作のアナログ盤の内溝に書かれた1文がCATHEDRALの、そして『Rise Above』のポリシーを言い表している。続いて『Rise Above』からリリースされたREVELATION『SALVATIONS ANSWER』のブックレットにも記されているこの文はこんなものだった。
「Doom Or Be Doomed」。

REVELATION、PENANCEMOURNなどのドゥーム・メタル・バンドのアルバムを次々と『Rise Above』からリリースする一方で、CATHEDRALは'91年10月にフルレンス・デビュー作『FOREST OF EQUILIBRIUM』を発表。"世界最遅"を目指す彼らのサウンドはNAPALM DEATH時代のリーのファンを驚愕させ、その一部は去っていくことになる。だが、それを補って余りある新たなドゥーム・メタル・フリーク層を獲得するのだった。


●Hellhound Records

イギリスでリー・ドリアンが『Rise Above』を設立したのを追うように'90年、ドイツで生まれたのが『Hellhound』レーベルだった。ミヒャエル・ボール(Michael Bohl)とトム・レイス(Tom Reiss)の二人によって作られたこのレーベルは『Rise Above』同様に決してドゥーム一辺倒ではなかったものの、初期から一般にはドゥーム系レーベルとして認知され、後には「the heaviest label on earth」を自認する活動を行っている。
『Hellhound』の第1弾リリースは残念ながら資料がなく不明だが、'90年には『SST』レーベルとの契約を失ったSAINT VITUSの『V』、'85年にレコーディングされながらリリースされなかったTHE OBSESSED『THE OBSESSED』、スウェーデンのCOUNT RAVENのデビュー作『STORM WARNING』など重要な作品を次々と発売。当時SAINT VITUSに身を投じていたスコット"ワイノ"ワインリックを説得してTHE OBSESSEDを再結成させるなど、ドゥーム史において果たした役割は大きい。
さらに彼らはREVELATION、IRON MAN、INTERNAL VOIDといった世界のB級〜C級ドゥーム・メタル・バンドの受け皿となることでシーンを活性化させた。THE OBSESSEDの『THE CHURCH WITHIN』『Columbia』、SAINT VITUSの『V』『Roadrunner』とディストリビュート契約を結ぶなど、ドゥームのメジャー化を試みたことも評価に値するだろう。
ただ、彼らはドゥーム・メタルを愛してはいたものの、ビジネス面ではアルバムを出したら出しっぱなし、所属バンドがヨーロッパ・ツアーを行ってもレーベルとしてのサポートは皆無と、ずさんな所があったようだ。そのせいで彼らはかつて関わりを持っていたミュージシャン達からは「ど素人の集まり」(ロブ・レヴィ、IRON MAN)「アパートの家賃を払うためだけに設立された自称レコード会社。地獄の炎で焼かれて欲しい」(ダン・フォンデリウス、COUNT RAVEN)「奴らに会ったらまず一発くらわして、それから挨拶するよ」(スコット・リーダー、THE OBSESSED)とボロクソの評価を受けている。
外野から見ても特にドゥーム系以外の作品(VORTEX OF INSANITYHYSTE'RIAH G.B.C.など)は聴くに堪えないものがあり、4回もレーベル・ロゴを変えるぐらいなら他にすることがあるだろう、と思う点もあるが、『Hellhound』が90年代前半ドゥーム・シーンに多大な貢献をしたことは確かである。
'96年にレーベルが解散してから、所属アーティストの多くが消え去っていった。そしてドゥームはストーナー・ロックへと姿を変えていく。


●CATHEDRAL / Rise Above
(後編)

CATHEDRALの『FOREST OF EQUILIBRIUM』により、ドゥーム・メタルはヨーロッパで注目を浴びるようになる。『Hellhound』レーベルの躍進も少なからず彼らの成功が起因しているだろうし、イギリスの『Peaceville』レーベルが80年代に自主制作でリリースされたPENTAGRAMの2枚のアルバムを再発したのもまたしかりだ。
だが、CATHEDRALはそれから間もなく大きな変化を迎える。アルバムのリリース後のイギリス、ヨーロッパ、アメリカを回る精力的なツアー活動に疲れたグリフがバンドから去ってしまったのだ。リーと共にドゥーム・メタルの信奉者だったグリフが去り、ギタリストのギャズがサウンドの要となったことにより、CATHEDRALはより70年代ブリティッシュ・ハード・ロック色の濃い音楽性を志向するようになっていく。NWOBHMやUKポンプ・ロックなどに関しても一家言を持つギャズだが、同時にDARK、CZAR、ANDROMEDA、LEAFHOUNDなどのアンダーグラウンド・ハード・ロック・バンドのマニアでもある彼はそんなヴィンテージな味わいをCATHEDRALサウンドに持ち込み、'93年5月に発表された2枚目のアルバム『THE ETHREAL MIRROR』はそれまでのドゥーム・メタル路線と新機軸が見事に融合した傑作に仕上がっている。
(なおバンドを脱退したグリフはYEAR ZEROを結成、前述の『Hellhound』レーベルから2枚のアルバムを発表するが、大きな成功を収めることは出来なかった。)

CATHEDRALは'93年8月に初来日公演を行い、アメリカでも『Columbia』からアルバムがリリースされるなど着実に成功への道を上っていく。そんな中にも彼らは'94年にはPENTAGRAMのヴィクター・グリフィンジョー・ハッセルヴァンダー、そしてTROUBLEのバリー・スターンをツアー・メンバーに迎えるなど、趣味も交えているのが興味深い。現在に至るまでの彼らの軌跡は語られ尽くしているので本稿では割愛するが、バンドとしての充実と同時に、『Rise Above』レーベルも英国ストーナー・ロック史上に残る2大バンドを発掘する。それがELECTRIC WIZARD、そしてORANGE GOBLINだった。

ELECTRIC WIZARDが活動を始めたのは早く、'92年頃には前身バンドであるTHY GRIEF ETERNALがデモをレコーディングしている。翌年バンド名をETERNALに縮めた時点で彼らは後に発表される「Chrononaut」のデモを制作しているが、まだ彼らは初期BLACK SABBATHクローンの域を脱しておらず、ELECTRIC WIZARDと改名して『Rise Above』からリリースしたデビュー・アルバム『ELECTRIC WIZARD』においてもまだSABBATHの影響は顕著だ。
そんな彼らが"壊れて"いくのが'96年のこと。元々マリファナ好きだった彼らだが、その耽溺ぶりはバンドの脳髄、そしてサウンドに決定的なインパクトを与え、この年の夏にレコーディングされた2ndアルバム『COME MY FANATICS...』はドロドロのヘヴィ・ストーナー・スラッジ感を伴う狂気の傑作に仕上がっていた。通常マリファナは人格にまでは影響をおよぼさないのだが、彼らのハマりぶりは異常なほどで、ステージに上がるときもキメ過ぎで演奏がおぼつかず、時には会場に行くことすら出来ないほど。「普通のストーナー・バンドっていうのはマリファナの経験を曲にするだけで、レコーディングする時はシラフだろ?俺たちは違う。スタジオでもライヴでも一日24時間キメてるぜ!」と誇らしげに語る彼らは正真正銘の馬鹿だ。
マリファナのせいでバンド活動に支障をきたすほどになっていく彼らと『Rise Above』の間にはヒビが入り、一時はかなり人間関係が悪化したと言われている。
それでも両者は和解、'99年に入って2枚のアルバム(一時廃盤だった)は再発されている。同年6月のCATHEDRALロンドン公演でも彼らはANATHEMAと共にサポートを務めることになったが、やはりステージ上で失態を繰り返す彼らをリー・ドリアンは苦虫を噛み潰す表情で見ていたという。
それ以降ELECTRIC WIZARDの動向は明らかになっていない。

一方のORANGE GOBLINはマリファナはたしなむ程度に留めているようである。彼らの前身バンドであるOUR HAUNTED KINGDOMが結成されたのは'95年。彼らは当初ANATHEMAなどから影響を受けた、デス、ゴシック・メタル色の濃いバンドだったが、徐々に70年代BLACK SABBATHやTROUBLE、KYUSSなどに傾倒していき、バンド名をORANGE GOBLINと変えることを決意する(デビュー音源となったELECTRIC WIZARDとのスプリット7"は本来新バンド名義でリリースされるはずだったが、ジャケット手配が間に合わずOUR HAUNTED KINGDOM名で出てしまっている)。
彼らが'97年12月に発表したデビュー・アルバム『FREQUENCIES FROM PLANET TEN』は日本でも発売され、熱く迎えられている。また続く『TIME TRAVELLING BLUES』('98)では英国ドゥームにKYUSSばりのアメリカン・デザート・サウンドを取り入れ、音楽性の幅を広げることに成功。'99年6月に行われたCATHEDRALジャパン・ツアーではサポート・アクトとして初の来日公演を果たしている。

『Rise Above』はそれら2バンドに留まることなく、多くのバンドの作品をリリース、ストーナー・シーンの拡大を図ってきた(リー・ドリアンは"ストーナー・ロック"という言葉を嫌い、"ドゥーム・ロック"という表現を使っている)。その20枚以上におよぶカタログの中にはHANGNAILSALLYといった英国ストーナーの新人バンド、またアメリカのGOATSNAKE、カナダのsHEAVY、ドイツのNAEVUSらの作品も含まれている。
また、彼らは'99年1月に『The Music Cartel』とアメリカ市場でのディストリビューション契約を締結。いよいよ世界戦略をスタートさせたところだ。


'99年に入ってACRIMONYが解散、IRON MONKEYが解散を発表するなど、英国ストーナー・シーンは決して順調とは言えない状況にある。だがアンダーグラウンド・シーンにおいてはTHE HEADSTHE DAWNといった70年代ハード・ロックの魂を受け継ぐ中堅バンド、古き良き英国="アルビオン"をコンセプトとする叙情派ドゥーム・メタル・バンドSOLSTICE、その他SHALLOWBLACKROCKEVEL KNIEVELらの若手バンドがひしめいている。ファンジン『Bad Acid』も自らのレーベルを設立、ELECTRIC WIZARD、日本のCHURCH OF MISERY、アメリカのBURNING WITCHFARFLUNGらの音源をリリースし、またQUEENS OF THE STONE AGEUNIDAらアメリカのストーナー・バンドの英国ツアーも成功に終わっているなど、シーンの火種が消えてしまったわけでは決してない。
現在のイギリスにおいて、ストーナー・ロックがオーヴァーグラウンドに浮上する可能性は残念ながら低い。だが、今後も優れたバンドがいくつも登場することによって、そんな壁が崩されていくことに期待したいものだ。
そのためにも『Rise Above』、あるいは『Hellhound』のようなレーベルのサポートは不可欠なのである。


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