7. from hardcore to sludgecore



70年代に登場、一気にロック・シーンの中で不動の位置を築いてしまったパンク・ロック。SEX PISTOLSやTHE CLASHのハードなサウンドやメッセージ性はそれまでヌルマ湯に浸かっていたロック・シーンを揺さぶることに成功したが、それらは80年代に入ってから後続バンド達によってさらに激化していく。DISCHARGEGBHTHE EXPLOITEDらの演奏は70年代パンク以上にヘヴィでアグレッシヴになり、その歌詞は直截的な政治的メッセージを含むものとなっていった。
ハードコア・バンドの多くはヘヴィかつアグレッシヴな音楽性を追求するにあたって、よりスピーディなアプローチを取っていたが、それに対し正反対の、ズルズルと引きずるような極端なまでにスローなサウンドを出していたのが"スラッジコア"バンドだった。彼らはBLACK SABBATHのヘヴィ・リフとハードコアの殺伐としたエモーションを融合させ、速いハードコアとは逆行して極限までスローにした形でエクストリームな音楽を生み出している。
本章ではスラッジコアの歴史について語っていく。ただ、ハードコアからスラッジコアへの変遷についての研究はまだ初期段階にあるため、皆さんのご鞭撻を仰ぎながらより正確で完全なものにしていきたい。


●80年代UKハードコア

70年代後半のパンク・ムーヴメントとそれに続くヘヴィ・メタル・ブーム(いわゆるNWOBHM)のせいで、イギリスにおいてパンクとヘヴィ・メタルの間には目に見えない溝が生じてしまった。パンクスはメタル・キッズを「ダサくて臭い」と貶し、メタル・キッズはパンクスを「演奏がヘタ」と中傷するなど、お互いのフィールドに踏み入ることは滅多になかった。
だが、そんな両者の枠を乗り越えたバンドも存在したことは事実である。MOTORHEADDISCHARGEGBHなどがそうだ。彼らの音楽性は両スタイルのクロスオーヴァーと呼べるもので、メタル・キッズからもパンクスからも支持を得ている。

80年代UKハードコア・シーンの中でスラッジコアの礎となった重要なバンドがDISCHARGEだ。'78年にシングル「Realities Of War」でデビューした彼らはチンケな音楽性の境界線などぶち壊すアグレッシヴなサウンドでハードコアの代表バンドとなっているが、そんな彼らが'86年に発表した問題作が『GRAVE NEW WORLD』だった。それ以前に既にメタル寄りの作品を発表、純パンク・ファンからは批判を浴びていた彼らだが、本作はBLACK SABBATHやLED ZEPPELINを思わせるスロー・ミディアム・テンポのヘヴィ・ナンバー主体の音作りがさらにファン離れを呼ぶことに。現在でも本作は廃盤である。
とはいえ、本作はスラッジコアのルーツのひとつという歴史的価値はもちろん、一定のフォルムに安住しない挑戦者としての姿勢、そしてサウンド的にも高く評価できる作品だ。

ハードコアとスラッジコアの間にある重要なミッシング・リンクのひとつとして挙げねばならないのがAMEBIXだ。CATHEDRAL、SEPULTURA、NEUROSISなどに影響を与えたことでも知られる彼らは冷徹で重苦しいヘヴィ・サウンドにシンセサイザーやサウンド・エフェクトを加えるなど奥行きを加えた方向性が特徴。彼らの初期のシングルは現在廃盤だが、『BEGINNING OF THE END』というブートレグCDでまとめて聴くことが出来る。'87年の解散まで彼らはヘヴィでディープな音楽性を貫き、アンダーグラウンドに留まりながらも現在に至るまで大きな影響を遺している。
なお彼らの初期のアートワークも独特の個性を持っており、CORRUPTEDとNOOTHGRUSHのスプリットCDのジャケットでもオマージュが捧げられていた。

初期AMEBIXが作品をリリースしていたレーベルが『Spider Leg』だった。FLUX OF PINK INDIANSのメンバーが設立したこのレーベルからデビューしたANTISECTの'84年のアルバム『IN DARKNESS, THERE IS NO CHOICE』も"ルーツ・オブ・スラッジコア"として重要だ。BLACK SABBATHのヘヴィネスと殺伐としたハードコア・テイストを加えたという点ではAMEBIXと共通する彼らだが、よりソリッドでストイックな音楽性が魅力だ。
(注:『Spider Leg』は後に『One Little Indian』と改名、ビョークやSKUNK ANANSIEの作品をリリースしている)

それに加えRUDIMENTARY PENIFLUX OF PINK INDIANSもヘヴィなミディアム・テンポのハードコアを追求しており、スラッジコアの父と見做すことが出来るだろう。


●BLACK FLAG

以上はイギリスのハードコア・シーンにおけるスラッジコアの誕生についてだが、一方アメリカでも同じ動きが発生しつつあった。そんなムーヴメントの急先鋒として現在に至るまで強い影響力を持っているのがBLACK FLAGである。
バンドが結成されたのは'77年。当初シンガーはキース・モリスが務めており、翌'78年に『NERVOUS BREAKDOWN EP』でデビューした彼らだが、彼は脱退してCIRCLE JERKSを結成。残されたバンドはヘンリー・ロリンズを加えて'81年に初のアルバム『DAMAGED』を発表している。当初本作はメジャーの『MCA』からリリースされる予定だったが、過激なメッセージ性に難色を示したレーベル側が手を引き、ギタリストのグレッグ・ジンが自ら設立した『SST』から発売されることになった。

『DAMAGED』ではアグレッシヴでアップテンポなハードコア・サウンドを聴かせていたBLACK FLAGだが、その音楽性の根底にあったBLACK SABBATHからの影響が露わになるのが'83年の2ndアルバム『MY WAR』においてである。ラスト3曲「Nothing Left Inside」「Three Nights」「Scream」はスローでヘヴィな、まさに初期BLACK SABBATHからインスパイアされたナンバーであり、英国勢に先駆けてハードコアとSABBATHの融合を試みていたことが窺える。

その音楽性で後続のストーナー・ロック・バンド達に多大な影響を与えたBLACK FLAGだが、それに加えて(それ以上に?)彼らをアメリカのロック史において重要な存在たらしめたのがグレッグ・ジンの設立した『SST』レーベルだった。このレーベルから作品をリリースしたアーティストをざっと挙げるとSONIC YOUTH、MINUTEMEN、MEAT PUPPETS、HUSKER DU、DINOSAUR JR.、BAD BRAINS...まさに80年代後半の"オルタナティヴ"シーンを代表する錚々たる顔ぶれだ。
それに加え、『SST』はSAINT VITUSやSOUNDGARDEN、ある意味SCREAMING TREESといったBLACK SABBATH系ヘヴィ・ロック・バンドもデビューさせており、そのルーツを忘れていないことを明らかにしている。
最近では今ひとつパッとしない『SST』だが、彼らの果たした役割は大きい。そろそろ彼らの功績を再評価するべき時期ではないだろうか。

『FAMILY MAN』('84)『IN MY HEAD』('85)などの優れたアルバムを発表しながら、BLACK FLAGは'86年に解散。その後のヘンリー・ロリンズの活躍についてはここで記すまでもないだろう。

そして、BLACK FLAGと入れ替わるように80年代中盤のシーンに浮上してきたのがMELVINSだった。


●MELVINS

MELVINSは'85年にワシントン州アバディーンで結成された。軸となるのはバズ・オズボーン(ギター、またの名をキング・バゾ)とデイル・クローヴァー(ドラムス)の二人で、初期に在籍していたベーシストのマット・ルーキンはMUDHONEYを結成している。 彼らはBLACK SABBATHとハードコアの融合という路線を受け継ぎながら、よりヘヴィでスローな方向性を取り、またDISCHARGEやBLACK FLAGの政治的メッセージ性を排除。より感覚にダイレクトに訴えかけるストーナーなサウンドを志向した。彼らをスラッジコアの祖と呼ぶ人も少なくないが、実際のところMELVINSは"MELVINS"というワン・アンド・オンリーの存在であり、ひとつの音楽ジャンルの枠に押し込めるには大きすぎる存在である。
ある意味彼らはどこにも位置しない、"キング・オブ・オルタナティヴ"なのである。

'86年に7"「Melvins」でデビューした彼らは翌'87年に1stアルバム『GLUEY PORCH TREATMENTS』をリリース。サンフランシスコに拠点を移して発表された『OZMA』('89)、『BULLHEAD』('91)、『LYSOL』('91、現在のタイトルは『MELVINS』)などのドロドロにヘヴィでスローなスラッジ・サウンドはカルト的な人気を呼んでいる。そんなマニアックなファンの一人がNIRVANAカート・コベインその人だった。

カートの尽力もあってMELVINSはメジャーの『Atlantic』と契約。カートがプロデュース、ギターとパーカッションでゲスト参加した『HOUDINI』('93)を発表する。やや洗練されたとは言え、彼らのサウンドは明らかにメジャー向きではなく(通俗的な"オルタナティヴ・メタル"に堕することを拒否したため)、『STONER WITCH』('94)『STAG』('96)のリリース後めでたく解雇。インディーズ『Amphetamine Reptile』レーベルから『HONKY』('97)と月刊7"シリーズ(12枚リリースされ、後に『12 SINGLES』としてまとめてCD化された)を発表した後、マイク・パットンの『Ipecac』レーベルから'99年に三部作『THE MAGGOT』『BOOTLICKER』『THE CRYBABY』を順次リリースするなど、独自のペースで活躍を続けている。

作品のテンションを考えると異常なまでのハイペースで作品を発表し続ける彼らだが、それに飽き足らないがごとくサイド・プロジェクトも活発だ。デイル・クローヴァーはALTAMONTというプロジェクトを結成、ドラムをギターに持ち替え、より"ストーナー・ロック"色の濃い音楽をプレイしている。なおデイルの奥方だったロリ・クローヴァーもACID KINGというストーナー・バンドで活躍中。
一方のキング・バゾはマイク・パットン(元FAITH NO MORE)、デイヴ・ロンバード(元SLAYER)、トレヴァー・ダン(Mr.BUNGLE)とのスーパー・グループFANTOMASで爆裂オルタナティヴ・アヴァンギャルド・サウンドを演奏。前述の『Ipecac』から発表されたアルバム『FANTOMAS』('99)ははっきり言って狂っている。

'99年4月に来日公演を行い、凄絶なまでのライヴを行ったMELVINSだが、日本におけるその認知度は悲しいまでに低い。本稿を読まれた方はぜひ彼らのサウンドに触れてみていただきたい。


●EYEHATEGOD

BLACK SABBATHとハードコアのクロスオーヴァーを試みてきた先人達の音楽性を踏まえながら、スローで陰惨なまでにヘヴィなスラッジコア・サウンドを完成させたのがEYEHATEGODだった。ニューオリンズで結成されたこのバンドは'91年に自らの『Intellectual Convulsions』レーベルからアルバム『IN THE NAME OF SUFFERING』でデビュー。自主制作とは思えない完成度のため、彼らは間もなく大手インディーの『Century Media』と契約、同作を再リリースしている。
'96年の『DOPESICK』まで3枚のアルバムと数枚のシングル(スプリット含む)を発表した彼らは"EYEHATEGOD風"と呼ばれるほど個性的な音楽性を確立。ほぼ同期のBUZZOV.ENと比較してもシーンに確固たる足跡を築いており、スラッジコアにおいて最重要バンドと言って過言でない存在である。
彼らから多大な影響を受けたバンドは数多く、またグローバルな規模におよぶ。バンドのシンガー、マイク・ウィリアムスのガールフレンド、アリシア率いる13は"女性版EYEHATEGOD"と言える音楽性だし、現在ではスラッジコア界を代表するバンドの地位を確立したGRIEF(元DISRUPTのメンバー達が結成)も彼らからインスパイアされたと公言している。海を隔てたイギリスから登場したIRON MONKEYのサウンドからもその影響は明らかだし、石川県金沢を本拠地としていたGREEN MACHINEも"日本のEYEHATEGOD"と呼ばれていた(2バンドとも'99年夏に解散。IRON MONKEYは3rdアルバムのプロデューサーにスティーヴ・アルビニを起用するプランがあり、GREEN MACHINEも米『Man's Ruin』から作品がリリースされるなど、大活躍が期待されていただけに残念)。
EYEHATEGODは'98年に解散を表明、メンバー達はCLEARLIGHTSUPLECSなどで活動してきたが、2000年春に再結成。またアルバム未収録曲集『SOUTHERN DISCOMFORT』もリリースされた。


●ASBESTOSDEATH〜SLEEP

ここで一項を設けておきたいのがサンフランシスコ出身のスラッジ・バンドASBESTOSDEATHだ。'90年に「Unclean」「Dejection」という2枚のシングルを発表した彼らは成功を収めることがなく、一部でカルト的支持を得た以外に後続バンドに影響を与えることはなかったが、メンバー交替を経て'92年にSLEEPと改名。よりBLACK SABBATHに傾倒したサウンドへと音楽性をシフトさせている。'96年にレコーディングされた壮大なスケールのマリファナ叙事詩『JERUSALEM』は歴史的名盤だが、制作時の精神的ストレスによりバンドは崩壊寸前。そして当時契約していた『London』レーベルがリリースを拒否したことによりバンドは資金源を絶たれ、解散に至っている。
(大曲「Antarctica Thawed」を含む最後の音源が存在するというが、リリース予定は全くの白紙。)
SLEEPのギタリスト、マット・パイクは'99年になって新バンドHIGH ON FIREを始動。自主制作でデビュー3曲入りEPをリリース後、2000年早々には『Man's Ruin』レーベルからフルレンス・アルバム『THE ART OF SELF DEFENCE』を発表した。
ドラマーのクリス・ハキアスは『Vol.1』でプレイしていたギタリスト、ジャスティン・マーラーと新バンドTHE SABIANSを結成。ベーシストのアル・シスネロスは音楽業界から足を洗い、チェスのゲームソフト制作に関わっている。
なおASBESTOSDEATHを脱退したトーマス・チョイはIT IS Iを結成。'94年にアルバム『EVOLVE』でインダストリアル色を加えながらダークなスラッジ・サウンドを追求していたが、現在では新バンドで活動している。


●現代のスラッジコア

現在のスラッジ・シーンはまさに百花撩乱の時代。コアな音楽性ゆえにメジャー・レーベルとは無縁であるものの、数多くのバンドがアンダーグラウンドで戦いを続けている。
その中でも代表的なバンドの名前を挙げると、インディーズ大手『Relapse』と契約しているBONGZILLANIGHTSTICK、『Man's Ruin』からアルバム『SUPERCOLLIDER』を発表したCAVITY、来日経験を持つDYSTOPIA16、7"主体のリリースながら注目度大のFLOORなど。
また日本においてもCORRUPTEDBORISらが活躍、海外においても高く評価されているが、彼らは純然たるスラッジコア・バンドというよりもアヴァンギャルドなサウンドを取り入れ、より深みのある音楽性を志向している。

スラッジコア・バンド達がそのルーツを忘れていないことを如実に表しているのがアメリカ『Hydrahead』のBLACK SABBATHトリビュート企画『IN THESE BLACK DAYS』だ。スラッジコアのみならずハードコア全般のバンドがSABBATHナンバーをカヴァーするというこの企画はこれまで7"が6枚リリースされているが、EYEHATEGODANAL CUNTBRUTAL TRUTHTODAY IS THE DAYCAVITYNEUROSISSOILENT GREENといった錚々たる面々が参加している。6枚で一応完結をみたこのシリーズだが、GOATSNAKEなどのボーナス・トラックを加えた2枚組総集編CD、そして7"ボックスセット(200セット限定)が発表される予定だ。


back