6. trouble and the 80s organic rock



TROUBLEは前章で紹介したPENTAGRAM、SAINT VITUS、THE OBSESSEDらと較べると活動当時から高い評価を受け、比較的順調なキャリアを送ったバンドだった。'79年春にシカゴで結成されたこのバンドは『Metal Blade』から『Def American』と有力なインディーズ・レーベルと契約を交わし、ほぼコンスタントにアルバムをリリース。彼らの実力からすれば当然、という気もするが、上述の3バンドがあまりに恵まれなかったのに対しラッキーだったことは確かである。ただ、彼らが最後まで正当な評価を受けることがなかったことも事実だが...。
デビュー・アルバム『TROUBLE』('84、後に『PSALM 9』と改題)で聴かれる彼らのサウンドは今日で言うドゥーム・メタルとブリティッシュ・メタルのクロスオーバーと呼べるもの。収録曲にはNWOBHM的アプローチ(ANGELWITCH風?)を取った曲もあるし、看板シンガー:エリック・ワグナーのヴォーカルはロブ・ハルフォードからの影響が窺える。2nd『THE SKULL』('85)では大作志向、3rd『RUN TO THE LIGHT』('87)ではスラッシュ色も取り入れるなど、シーンの動向を横目で睨みながら様々な実験を行ってきたことがその成功の理由だったのだろう。
そしてそんなTROUBLEの実験は『Def American』移籍第1弾アルバム『TROUBLE』('90)で新局面を迎えることになる。

ここでページを割いておかねばならないのがリック・ルービンの存在だ。彼は『Def Jam』〜『Def American』〜『American Recordings』の総帥としてロック、メタル、ヒップホップとジャンルを超えたバンドを数多く世に送り出してきたが、その根底にあったのはオーガニック(肉体的)なサウンドの追求だった。'84年にラッセル・シモンズと共に『Def Jam』を設立した彼はエレクトリック・ポップスがチャートを席巻していた80年代前半に反旗を翻すようにSLAYER『HELL AWAITS』、BEASTIE BOYS『LICENSED TO ILL』、RUN D.M.C.『RAISING HELL』を次々とリリース。'87年にはそれまでゴス色が濃かったTHE CULTを『ELECTRIC』で見事に70年代スタイルのハード・ロック・バンドへと変貌させ、ヒップホップ史上最も重要なグループのひとつであるPUBLIC ENEMYをデビューさせるなど、音楽シーンに台風の目へと成長していった。
'88年にシモンズと袂を別って『Def American』を設立した後もルービンはDANZIG、BLACK CROWES、MASTERS OF REALITY、RED HOT CHILI PEPPERSらのプロデューサー、あるいはエグゼキュティヴ・プロデューサーとしてオーガニックな音作りを実践。近年ではジョニー・キャッシュやトム・ペティなど古き良きアメリカン・ロック・サウンドも手がけている。
ルービンの元からはブレンダン・オブライエンデイヴ・サーディなど一線級のプロデューサーが巣だっており、そのような間接的な影響力を考慮すると、彼の存在抜きでは90年代のヘヴィ・ロックを語ることは出来ないと言えるだろう。常に肉体の躍動感を重視したサウンドを愛してやまないそのプロデュース・スタイルはストーナー・ロックと共通する要素が感じられる。事実彼はTROUBLEやMASTERS OF REALITYといったストーナー・バンドを手がけているし、80年代末にはオジー・オズボーンのアルバムをプロデュースするという話もあった。なおその話が流れた理由は、オジーによると「あいつは俺に昔のBLACK SABBATHみたいなアルバムを作らせようとしたんだ」。なんとルービンはストーナーの始祖であるオジーにストーナー・アルバムを作らせようとしたのである!

話をTROUBLEに戻そう。『Def American』からの第一弾『TROUBLE』はバンドがメタルの枠から脱皮した"ロック・アルバム"だった。サウンドはよりグルーヴを強調した70年代スタイルのヘヴィ・ロックへとベクトルを向け、アルバムは高い評価を受けた。続く『MANIC FRUSTRATION』('92)は同作の路線をさらに発展させ、アーティスティック面では大成功作だったものの、セールス的には伸び悩み、『Def American』はバンドと契約を解除する。TROUBLEはインディー・レーベル『Century Media』から『PLASTIC GREEN HEAD』('95)をリリース後、'96年4月にエリック・ワグナーが脱退したことによりバンドの歴史にいったん終止符を打っている。

TROUBLE解散後、最初に動きを見せたのがワグナーだった。彼はバンド最後のヨーロッパ・ツアーで共演を果たしたANATHEMAのギタリスト、ダニー・キャヴァナーと合体し、LIDと名付けられたプロジェクトを始動。アルバム『IN THE MUSHROOM』ではTROUBLEよりさらに時代を逆行した60年代サイケ・ヘヴィ・ロックを聴くことが出来る。彼らはANATHEMAのスケジュールとバッティングしない範囲でツアーなども行う意向があったが、現在に至るまでそれは実現していない。

そうして忘れ去られる運命にあったかのように思われたTROUBLEだが、数多くのストーナー/ドゥーム・バンドが彼らから多大な影響を受けたことを公にしており、'99年4月にはスウェーデンの『Freedom Records』から彼らに捧げるトリビュート・アルバム『BASTARDS WILL PAY - TRIBUTE TO TROUBLE』もリリースされた。このアルバムではORANGE GOBLIN、SPIRITUAL BEGGARS、CHURCH OF MISERY、THE QUILLなどに加えてエリック・ワグナー自らもプロジェクト・バンドTHIS TORTURED SOULを率いて「The Tempter」をリメイクしている。
その後なんと'99年8月にニュー・ジャージーで行われるフェスティバル『Stoner Hands Of Doom』でTROUBLEが再結成されることが発表された。シンガーの座はワグナーが参加するか否かで二転三転したが、結局カイル・トーマス(元EXHORDER〜FLOODGATE)が出演することになった。また、このライヴが彼らのラスト・ライヴとなるという噂もあり、今後の動向が気になるところである。

TROUBLEは80年代ドゥーム・メタルから90年代ストーナー・ロックへの変動を自らの音楽によって体現したバンドだった。彼らの軌跡を再検証することは、歴史のターニング・ポイントについて知る上で欠くことが出来ない重要な課題なのである。


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